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弾みで別れられる関係 ③

Penulis: 紅城真琴
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-20 23:00:10

その日の夕方。

ちょうど帰ろうかと思ったタイミングで、翼からのメッセージが届いた。

「飯行くか?」

私は迷うことなく了解のスタンプを返した。

色々言いながら、それでも気にかけてくれる翼が本当にありがたい。

軟派なくせに良い奴なんだから。

「オー、紅羽」

病院を出ようと通用口まで来たところで、私に向かって手を振る翼が見えた。

随分目立つことするじゃないかと思っていると、チラチラと感じる周囲からの視線。

ん?

遠くの方で、ジーッとこちらを見ている女の子。

ああ、そういうことか。

結局また、翼の女の子避けに利用されてしまったらしい。

仕方ないから、今日はたくさん食べさせていただきましょう。

***

向かったのはいつもの大衆居酒屋。

炭水化物嫌いな私にとって、食べられるメニュ-の多い幸せな夕食。

その相手が気兼ねない翼なら文句はない。

さー、食べるぞ。

まずはビールで乾杯して、唐揚げ、サラダ、肉じゃがと、串揚げも。

結構高カロリーに頼んでしまった。

「お前って、本当わかりやすいよな」

「何が?」

「食欲がストレスと比例してる」

「どういう意味?」

「イライラしてるときは高カロリーな物を欲しがるし、そうでないときは割とあっさりした物を注文する。誰が見てもわかるよ」

それは、えっと・・・単純だと言われているんだよね。

「悪かったわね」

良くも悪くも私の性格を知り尽くしいる翼に、今更何を隠すつもりもないけれど、この上から目線にはカチンとくる。

そりゃあ、翼は欠点のない完璧王子ですものね。

「で、お前はどうするの?」

「何よ、いきなり」

「3ヶ月の出張が終わったら、旦那に異動の辞令が出るぞ」

そりゃあ、そうよね。

それ前提での長期出張でしょうから。

「ついて行かないのか?」

「そんなの、行けるわけない」

翼だって分ってるはず。

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